はじめに
「また兄弟げんかが始まった…」そんな声が家の中に響くたび、お母さんの心は疲れてしまいますよね。朝起きてから寝るまで、おもちゃの取り合い、テレビのチャンネル争い、お母さんの注意を引こうとする競争…。一体いつまで続くのだろうと不安になることもあるでしょう。
でも大丈夫です。兄弟げんかは成長の証でもあり、適切な関わり方を知ることで、驚くほど平和な家庭を築くことができるのです。今日は発達心理学に基づいた実践的な方法をお伝えします。
兄弟げんかの心理学的背景
なぜ兄弟はけんかするのでしょうか?発達心理学の研究によると、兄弟げんかには以下の心理的要因があります。
1. 親の愛情の独占欲
子どもたちは本能的に親の愛情を独占したいと思っています。これは生存本能に根ざした自然な反応です。特に下の子が生まれると、上の子は「愛情を奪われた」と感じやすくなります。
2. 発達段階の違い
年齢の違いは能力の違いを意味します。上の子ができることが下の子にはできない、逆に下の子が許されることが上の子には許されない。この不公平感がけんかの原因となります。
3. 自己主張の練習
兄弟げんかは、実は社会性を身につける大切な練習でもあります。自分の気持ちを表現し、他者と交渉する力を育んでいるのです。
年齢差別の対処法
2歳差の場合
発達段階が近いため、同じような欲求を持ちやすく、競争が激しくなりがちです。「順番」のルールを明確にし、タイマーを使って公平性を保つことが効果的です。
3歳以上離れている場合
上の子には「お兄ちゃん・お姉ちゃん」の特別感を与えながら、下の子の発達に合わせた配慮をします。年齢に応じた異なる特権や責任を与えることで、比較による不満を減らせます。
具体的なシーン別対応法
おもちゃの取り合い
- 即座の介入:「ストップ!まず深呼吸しよう」と声をかけ、感情を落ち着かせる
- 双方の気持ちを聞く:「◯◯ちゃんはどんな気持ち?」「△△くんは?」
- 解決策を一緒に考える:「どうしたら二人とも楽しく遊べるかな?」
親の注意の奪い合い
- 一対一の時間を作る:それぞれの子と個別に過ごす「特別タイム」を設ける
- 協力を促す声かけ:「二人で協力してくれると、お母さんはとても嬉しいな」
- 良い行動を具体的に褒める:「仲良く遊んでいる姿が素敵だね」
親の関わり方の5つのコツ
- ジャッジになるのではなく、ファシリテーターになる
「誰が悪い」を決めるのではなく、「どうすれば解決できるか」を一緒に考えます。 - 感情を言語化してあげる
「悔しかったんだね」「悲しい気持ちだったのね」と子どもの感情を代弁します。 - 平等ではなく公正を目指す
同じものを与えるのではなく、それぞれの子に必要なものを与えます。 - 兄弟の良い関係性を積極的に認める
けんかばかりに注目せず、仲良くしている瞬間を見逃さず褒めます。 - 親自身の感情をコントロールする
イライラした時は深呼吸し、冷静な声のトーンを保ちます。

家庭環境の整え方
物理的環境の工夫も兄弟げんかの予防に効果的です。
- それぞれの子の「専用スペース」を作る
- 共有のおもちゃと個人のおもちゃを分ける
- けんかしやすい時間帯(お腹が空いている時など)を把握し、先回りして対応する
- 家族のルールを明文化し、見えるところに貼る
今日からできる3つのアクション
- 「ありがとう作戦」の実施
兄弟が協力した瞬間を見つけたら、すかさず「二人で協力してくれてありがとう」と伝える。 - 個別タイムの確保
1日10分でも、それぞれの子と一対一で過ごす時間を意識的に作る。 - 感情コーチングの実践
けんかが起きたら「どんな気持ち?」と聞き、感情を受け止めてから解決策を考える。
まとめ
兄弟げんかは決して悪いことではありません。むしろ、子どもたちが社会性を学ぶ貴重な機会です。完璧な親になろうとせず、子どもたちと一緒に成長していく気持ちを大切にしてください。
今日お伝えした方法を少しずつ実践していけば、きっと家庭に平和な時間が増えていくはずです。兄弟げんかで疲れた時は、「今、子どもたちは大切なことを学んでいるんだ」と思い出してくださいね。あなたの温かい関わりが、子どもたちの心を育んでいます。

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